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その2(足袋):舞を支える足袋職人

「ご足袋をご持参ください」。和関係のお稽古事をするとき、よくこういわれる。「心新たに、新しい足袋、買おっかなぁ」。実は、すごく心惹かれる足袋屋さんを発見したのだ。「大人が選ぶ東京くつろぎ散歩(発行:情報センター出版局)」という本に載っている大野屋総本店(電話03-3551-0896)。ちなみに、前回の綿やもこの本で見つけた。ちょっと、小粋に東京を遊びたい!という人にはお薦めの一冊である。それでは、さっそく、大野屋総本店にGo!!

中央区新富町。昔この地は、新富形といわれ歌舞伎俳優や芸子さんのいる地区だったという。いまでは、グレーの何の変哲もないビルが立ち並ぶ地となったが、その一角に、どっしりと落ち着いた木造の一軒屋がある。大野屋総本店。薄ぐもったショーケースには「御足が入りますように」との足袋のお守り(1000円也!)が展示されている。

ガラス越しに店の中を見る。顔の面積の半分以上が隠れるのではないかと思われるような真っ黒のサングラスをかけたおばあちゃんが一人、足袋を縫っている。うーん、どーしよーかなぁー。こういう、老舗の店、入るのって勇気いるんだよなー。でも、せっかく来たんだから。。。

がらがら。。。
「いらっしゃいませ」
と、さっきのおばあちゃんがにっこり。ささっと店を見回すが、手にとって見られるような品物が置いてない。んー、腹をくくろう。

「あの、足袋が欲しいんですけど。」
「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
と、にっこり。カウンターの裏へ通され、半畳の畳の上で足のサイズを見てもらう。足の切れ込み、足幅、くるぶしをささっとチェック。
「これ、試してみてくださいね。」
見本がいっぱい入った銀色の缶ケースから一組取り出す。大野屋総本店では、足袋のサイズが足の幅、甲の高さごとに細かく分けられているので、大抵はその人にぴったりのものが見つかる。

しまった!ストッキングをはいてきた。
「ストッキング、脱いで試した方がいいですか?」
「んー、大丈夫ですけどね。でも、脱いだほうが感覚は掴みやすいかもしれませんね。ちょっと、お待ちください。」
てけてけてけ。。。店の中に入っていき、一枚の風呂敷を持ってきた。ばっと、風呂敷を広げて私の前で仁王立ちになってくれる。
「これで、見えないですよ。さっ、どーぞ。」
サングラスとおばあちゃんと風呂敷。なんとなく、宮崎駿の映画のキャラクターに出てきそうだ。

「あらぁ。ある中でも一番細いやつなんですけどね。」
「でも、手持ちのに比べたら、まだいいほうだと思います。私、足の指も長いからなかなかぴったりの足袋、ないんです。」
「ここにあるのじゃだめみたいですね。ちょっと、先輩を呼びますからお待ちください。」
こんなおばあちゃんより、先輩の人がいるのか。しばらくすると、ちょっと気難しそうなおじいちゃんが出てくる。

「足出して。」
と、すこし、ぶっきらぼう。恐る恐る、足を出す。おじいちゃんは、メモを取り出し、足袋の製図を書く。
「何枚こはぜがいいかね。普通は4枚だけど、お客さんみたいに背が高いと5枚でもいいかなぁ」
「こはぜって、なんですか?」
おじいちゃんは、答えない。きゃぁー、愚問だったのだろうか。

「足袋は、どこで使うの?」
「踊りとか、お茶とかやるのに使うんです。」
「ほー、踊り。」
やっと、おじいちゃんの顔がほころぶ。
「踊りの人は、5枚こはぜの人が多いね。ほら、短いと足首見えてかっこ悪いだろ。流派はどこ?」
「花柳、、、です(注:実は、来週から踊りを習うのだが、流派は尾上であった。。。私は、踊りといえば、花柳しか知らなかったのだ。とほほ。。。)」
「なんだ、花柳かい。花柳はお家元から皆さん、よくうちに買いに来るよ。あそこは、5枚こはぜが多いね。。。お家元の家、ここから近いだろ?ほら、築地のほうだから。で、先生は誰だい?」
「。。。今度から、習い始めるんで先生のお名前わからないんです。すみません。。。」
ひっ、冷や汗かくぅー。しかし、このおじいちゃん、踊りの話になるととっても嬉しそう。。。

「特注なので六足組みになるよ。一足3,900円に消費税と送料で24,970円」
うっ。本当は、二・三足あれば充分と思っていたのだけど。。。予想していたより、高い買い物になってしまった。。。

「いつ使うの?」
「出来れば、来週。」
「来週?!」
「あっ、あの、家にも予備はありますし、いつでも構いません。」
「じゃぁ、サンプル出来たら送るから。」
「あの、もう一度、聞いていいですか?5枚こはぜってなんですか?」
「、、、」
やっぱり、答えてくれない。愚問中の愚問なのだろうか。。。家に帰って、辞書を引く。「爪方の具で、足袋などの合わせ目をとめるもの」。あー、あれね。確かに、足袋をつくりに来たにしては愚問かも。

3日後、大野屋さんから封筒が届いた。「お見本ですので、二、三度水洗いしてお試しください。」との達筆なメモと紙紐で結ばれた足袋が一対。おじいちゃん、早くやってくれたのかなぁ。。。履いてみる。足に吸い付くようなフィット感。特に、足の甲の周りがだぶつかなくていい。昔、「小顔美人」というワードが女性誌で流行ったけど、その足版って感じ。白く、きゅっと締まった小足美人。なんだか、私の足、素敵だわ(こういうのは、言ったもん勝ちです)。。。しばし、自分の足に見とれる。。。部屋をうろうろ歩いてみる。ごわごわした感覚がなくて、歩きやすい!今までだと、足袋に着られているという感じだったけど、足と足袋が一体になっているみたい。

「舞へば足もと 語れば目もと 足袋は大野屋新富形」とは、封筒に書かれたコピー。200年の昔から、その顧客リストには歴代の歌舞伎役者や舞台俳優が並ぶという。今も昔も変わらない、ひと針ひと針に込められた職人の心と技に支えられ、役者は今日も舞台に華を咲かせるのだろう。

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