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その3(落語):落語を肴に、ちょいと一杯(前編)

「お金がないと楽しく遊べない」。かつての私は、頭の片隅でそう信じていた。お勤め生活からしばし離れている私には、「金はないけど、暇はある」。これをチャンスと、「リーズナブルに楽しみ隊」を結成した。現在、隊員は一人。随時、参加者を募集している。さて、隊員活動を進めるなか、なんと、落語がただで聴ける居酒屋を発見(ネタ元は、前述の「東京くつろぎ散歩:情報センター出版局」)!ちなみに、落語は通常、上野の鈴本演芸場や新宿の末広亭など、寄席といわれる演芸場で行なわれる。以前行った鈴本演芸場を例にとると、約4時間たっぷり楽しんで2,700円。演芸場の雰囲気、生のお囃子、14人の多彩な演者、、、内容からすれば、決して高くない。でも、落語を肴に、お酒がいただけるとなれば、この居酒屋にも行くしかないでしょう。橋本隊員、出動しまっす(しつこい?)!

その居酒屋は新橋にある「炉ばた」(03-3433-7655)。JR新橋駅の烏森口を出て、キムラヤとパチンコ屋に挟まれた「サラリーマンの街・新橋」っぽい道を約1分。突き当たりに見える大きな水車が目印だ。

35席前後のこじんまりとした民芸調の店内。囲炉裏を囲むようにして造られたコの字型のカウンターの内側には、寄席文字(筆太で書かれた文字)で「らん丈」と書かれためくりと呼ばれる札が下げられている。ここが、落語家さんの座る「高座」になるのね。

「炉ばた」での落語がスタートしたのは昭和45年。三遊亭円橘師匠が前座時代に飛び込みで落語会を持ちかけたのがきっかけだそうだ。それが、現在も受け継がれ、毎週火・土曜日、7時と9時の二回、店内で生の落語を楽しむことができる。

テケテン、テケテン、テケツクテン。。。お囃子の音が始まる。
「皆様、本日は炉ばたにおいでいただきまして、誠にありがとうございます。ただいまより、皆様には、落語でお楽しみいただきます。第3631回目の炉ばた寄席。本日の出演は、三遊亭らん丈でございます」

すると、着物に身を包んだらん丈さんが厨房から現れ、高座に登る。第一回目、7時の部のネタは「桃太郎」。昔と今の子に、おとうさんが桃太郎のお話を聞かせるとどうリアクションが違うのか、というお話し。落語にも、昔の話から現代の話までいろいろなタイプのものがあるが、こういった現代ものは、昔の言葉を使わないので、肩肘張らずに聴け、素直に笑える。

7時からの部が終わる。ビールを飲みながら、げそ揚げを食べていると、奥の席で先程のらん丈さんが、真剣な面持ちでノートを見ている。

何やっているんだろう。。。気になる。。。すすすっと近寄って、ノートを覗き込む。そこには、鉛筆で書き込まれた文章がびっちり。

「ネタ帳ですか?」
「これは、根多帳(正式にはこのように書く)じゃぁ、ありません」
「台本ですか?」
「まっ、そんなものですね」

先程の舞台とは違い、硬い表情。邪魔しちゃぁーいけないので、遠くから、眺めることにする。らん丈さんは、ある時はぐっと眉間に力を入れ、ある時はほにゃっと笑いながら、小声で何やらぶつぶつつぶやいている。次のネタのおさらいをしているのだろう。本番直前の真摯な芸人の姿を感じる。

本日第二回目、9時からの落語。お題は「猫の皿」。江戸時代のお話しで、骨董品屋の目利きだった人が、職にあぶれ、巡業しながら食べていく姿が描かれている。

私の感じる落語の面白さの1つは、学校の歴史の授業では学べない庶民の暮らしぶりが知れるところだ。例えば、こういった目利きがどうやって巡業で食べていたか。彼らは、旅先でいろんなお屋敷の蔵を訪ね、普通の人ならガラクタと思ってしまうようなお宝を見つけては、安く買い取り、高く売りさばいていたそうだ。こういう落語を歴史の授業に取り入れれば、その時代を身近に感じることが出来、歴史をもっと好きになれたのにと思う(文部科学省に提案してみようかしら。。。)。

また、落語は動作や物の表現の仕方が面白い。例えば、歩く動作。これは、着物の袖口を持ち、体を前後に揺らして表す。小道具もうまく使われる。例えば、扇子を杯に見立ててお酒を飲んだり、手ぬぐいを財布に見立ててお金を取り出したり。。。

多額の資金を掛けリアルな世界を描写するハリウッド映画やTVゲームにどっぷり漬かった近頃の私たち。バーチャルな世界の中で、人は想像することを忘れ、その力を失っていく。それに対し、ミニマムな中で観客を想像の世界へといざなう日本の落語は、今の私たちに足りない「柔軟に考える力」を育ててくれるのではないだろうか。

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