第六回「囲碁で新春一番勝負」
議事録********************
2003年1月17日、東京・市ヶ谷の日本棋院にて、和散歩・趣き深き会 第6回「囲碁で新春一番勝負!」を開催しました(参加者17名)。当日は、囲碁棋士・梅沢由香里五段をお迎えし、インタビュー形式の座談会&囲碁教室が行なわれました。これは、その議事録と参加者の感想です。
囲碁というと、「お年よりのゲーム(失礼!)」「難しそう」など、我々の年代には近寄りづらい雰囲気があるのですが、そのイメージは完全に取れたといってもいいのではないでしょうか?
今回、それがなしえたのは、梅沢由香里さんという「人」の存在が大きかったかと思います。これは、参加者の感想を見ても明白ですね。その梅沢さんの素晴らしさ。これは、天性のものもあるでしょうが、私は囲碁を通じて形成されたものも多分にあるのではないかと思ってます。囲碁は、「調和のゲーム」「与える心を持ったゲーム」とも言われます。そんな囲碁の精神を、参加者の方は梅沢さんの姿勢に見たのではないかと思いました。
人生には様々な勝負があります。囲碁の勝負を見ていると、人生の勝負の縮図を見ているような気がします。囲碁の世界には、単なる「ゲーム」という言葉で置き換えられないような何かがあるような気がしました。
さて、ここでの発言は、あくまでも梅沢さん、及び、参加者の主観です。何分、一意見として、ご覧いただけますよう、お願い申し上げます。
最後に、梅沢由香里さん。会の開催に快く協力いただいたうえ、囲碁セットまで用意していただいて、もう感謝感激雨あられです。本当にありがとうございます。また、今回は、私が欠席してしまったため、和散歩のサポートメンバー(マシュー、クヌギちゃん、ikkoさん)が会の指揮をとってくれました。ありがとう。まず、マシュー。インタビューがとてもよかった!と、参加者の皆様および由香里さんからもコメントをいただきました。ikkoさんの議事録(&ビデオ撮影)、クヌギちゃんの写真撮影も、素晴らしい!そして、参加者の皆さんも本当にありがとうございました。皆さんあっての、和散歩です。今後ともよろしゅう。
和散歩・主宰
嘉誉
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書記:ikko & 嘉誉(和散歩)
2.1.囲碁の世界
*囲碁はいつ頃、どこから来たの?どのように広まったの?
*囲碁の段ってどんなもの?
*他にある囲碁の世界の「しくみ」ってどんなものがありますか?
*プロの世界
*女流棋士について
*師匠と弟子の関係
*海外でも人気の囲碁
*碁盤や碁石のこと教えて!
*将棋と碁は接し方が少し違う
2.2.囲碁との付き合い
*囲碁に強くなるためには?
*囲碁って頭が良くないとできない?
*コンピューターも棋士にはかなわない!
*囲碁とのいい関係を作る
*囲碁って、敷居が高い?
2.3.梅沢由香里五段と囲碁
*囲碁をはじめたきっかけは?
*プロになったきっかけは?
*プロになるのって難しい?
*挫折と苦悩に満ちたプロへの道のり
*梅沢由香里にとって囲碁はどんなもの?
Y: 梅沢さん
M: マシュー
K: 会場
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M:
囲碁は中国から来たものなんですか?
Y:
囲碁はインド説もあるんですが、きっと中国だろうと言われてます。陰陽五行説が生まれた頃に囲碁が生まれたのではないかと。
K:
日本に来たのはいつ位?
Y:
吉備真備が伝えたと言われてますが、真偽の程は不明です。日本に入ってから少しずつ囲碁は浸透しました。遣唐使の船にも、碁を打てる人が乗っていたんですよ。囲碁は時間を忘れられるゲームなんです。平安時代は思いっきり浸透してきたようで、源氏物語や清少納言などに囲碁にまつわるシーンがいっぱいでてきます。正倉院に残っている碁盤と碁石はすごく綺麗なんですよ。花や草の絵が書いてあって宝物として残されています。
「木画紫檀棊局」(もくがしたんのききょく) こうげこんげばちるのきし
M:
クヌギさんが見たことがあるんですよね?
K:
前にNHKの囲碁のテキストの表紙で見たことがあります。白石は全部真っ白なんですが、黒石のほうが、緑やピンク等、いろいろな色なんですよ
Y:
でも、実際それで対局したらとても打ちにくいでしょうね。実は白と黒にも意味があるそうなんです。陰陽五行説で、白を昼、黒を夜に見立てました。碁盤の目の数は361箇所あるんですが、これを旧暦の暦と考えたようです。で、占いとして使ってたものらしいんです。
K:
いまでも占いできる人は、いるんですか?
Y:
どうやって占いしていたかは分からないんです。でも、どうやら、春夏秋冬の暦に分けてやっていたらしいです。碁盤に9つある黒丸を「星(ほし)」と呼び、9個の星のうち真中のを「天元(てんげん)」と呼びます。昔は貴族の女性達の遊びだったようです。それが戦国時代、武将に広まりました。武将によっては実際の戦の参考にしたらしいです。
M:
江戸時代にブームがあったんですよね。
Y:
プロ制度ができたのが江戸時代。徳川家康が制度をつくって、囲碁でご飯を食べていく仕組みができました。
M:
本因坊とか?
Y:
本因坊はお寺の名前らしいです。最初にプロになった人は、すごいことに織田信長・豊臣秀吉・徳川家康と三代に仕えたんですよ。
それが「日海(にっかい)」という方だったんですが、プロになった時に「算砂(さんさ)」と名前を変えて、初代の本因坊になりました。その方が住んでいた場所がお寺で、本因坊(寂光寺塔頭の一つの名前)という名前になったそうです。江戸時代はプロになるのがお坊さんで上層階級が楽しんでいたようです。そのあと徐々に広まっていったようです。
M:
梅沢さんは五段ということですが、段というのはどんな仕組みなんですか?
Y:
アマチュアは初段から七段。アマチュア七段以上の人がプロになります。プロになった瞬間、プロの初段になるんです。プロ初段の時、地方に行って「君は何段だい?」って聞かれて「初段です」って答えたら、(アマと勘違いされて)「わしは五段だから、君は弱いね〜」と言われたことがあります(笑)。
M:
段と言うのは増えていくものなんですか?
Y:
プロの世界は初段から九段まであります。私はちょうど中堅どころですね。
Y:
一番囲碁界で強いのは「棋聖」。トーナメント戦で勝ってタイトルを取ると「○○棋聖」と呼ばれるようになります。 賞金が3000万円位です。
M:
意外とビックマネーが動く世界なんですね
Y:
一億円プレーヤーというのはなかなか出ない世界なので、ビジネスなどに比べると市場は小さいですよね。
K:
プロにはいろんなタイトルがありますが、それぞれのタイトルはひとりだけ?
M:
それぞれのタイトルにそれぞれの一位がいます。だから、考えようによっては、日本一が何人もいるのですね。賞金が一番高いタイトルが「棋聖」で、日本で一番強い人が棋聖を持っているということになっています。
K:
タイトルの争奪戦は年に一回?
M:
そうです。タイトルを一度もつとタイトルホルダーとして、勝ち上がる人を待っているんです。最後に(野球の)日本シリーズのように7番勝負を戦います。タイトルホルダーは待っていられるのでチャンスが近いのですが、勝ち上がって来た人は勢いがあるので、どちらがいいか難しいところです。
K:
先ほどの話では、碁は女性のもので、将棋は男性のものだったと?
Y:
平安時代は女性が楽しんでいましたが、戦国時代は武将が楽しんでいました。だから、はっきりとはいえないですね。ただ、囲碁の女流棋士の歴史は江戸時代の半ばから誕生しているので、将棋よりは長いです。
K:
女流棋士はどれ位いますか?
Y:
約一割が女性。囲碁は男女の区別が無いんですね。でも女性だけの棋戦があって両方出られる。女性にとってはお得です。
M:
名人になると、弟子をもったりするんですよね。
Y:
人それぞれですね。名人の中でも、偉大な先生がいました。私の師匠の師匠にあたる方で木谷先生。今の囲碁界があるのも木谷先生のお陰というくらい、多くのプロを輩出しました。内弟子といいますが、30人から40人位住まわせていました。上から下のレベルの人がいて、常に研究したり戦ったりできるので、素晴らしい環境ですね。師匠の加藤正夫本因坊も中学生くらいの時に福岡の親元を離れ、木谷先生のところで住み込みで勉強しました。私は通い弟子なのであまちゃんです。
K:
中学はやめてしまうんですか?
Y:
あまり勉強はしていないみたいです。今でも中卒の棋士は多いですが、大卒の棋士も最近ふえてきました。
M:
どういう人につくかは大きな問題ですね。
Y:
弟子は師匠を選べないのです。見出されたら、それだけで有難いので、その先生のもとに入るということが多いです。私は尊敬できる名人に出会えたことがすごく幸せなことだったと思います。
師匠からも、碁については指導がありますが、他の日常生活についてはほとんど言われません。ただ、師匠を見て人としての生き方を学びます。師匠と一緒に仕事に行くと本当にすごいなぁと思うんですね。心に座っている精神が違うんですよ。ファンの皆さんに対する感謝の気持ちが、潜在意識まで座っているんです。恥ずかしい話なのですが、私は恵まれた状況からはじまっているので、最初は何かしてもらうのが当たり前だと思ってました。それが、師匠のお供でいろいろなところに行くうちに、自分は思い上がっていたんだなぁと気付かされたんです。いまでは、その考えが少しづつ小さくなってきました。
M:
こういうことをやるなって言うわけではないんですね?
Y:
何も言わないです。師匠を見ていると、自分はなんて子供なんだろうって感じます。私が悩んでいる時など、師匠は言わなくても分かっているんですね。で、さりげなく見守っていてくれている。常に応援者で、何か言う時は心から私のことを思ってくれているというのが、すごく伝わってくるんです。こんなに良い師匠にめぐり合えて本当に幸せだと思います。
M:
海外でも囲碁は人気?
Y:
今は世界60ヶ国で楽しまれています。だから、囲碁をやっていると、思わぬコミュニケーションができると思います。私が小さい頃、大人と対等に戦えたのと同じように、盤を間に置くことで人間界の面倒くさい壁が一切取りはらわれるのが、囲碁をやっていて素敵だなと思うことのひとつです。
K:
海外にもプロの方が?
Y:
日本・中国・韓国と台湾の4カ国にプロ制度があります。ルーマニアから日本にきてプロになった方がいますし、最近ではロシアから韓国に行って強くなったケースがあると聞いてます。
M:
ワールドワイドなんですね。
Y:
ヒカルの碁もフランスで発売されて、全巻売り切れたそうですよ。
M:
どこでも誰でもできるというのはどういうことですか?
Y:
ハンデをつけさえすれば台頭に戦えるゲームだからです。海外に行ったときに、まず碁会所を探すと良いですよ。フランスは面白くて、カフェで囲碁を打ってるんですよ。それぞれの国での囲碁の文化があって面白いなと思います。
M:
日本でもカフェで打ったら面白ですね。
Y:
長時間打ったら、うっとうしいと思われるかもしれません(笑)。
Y:
ここにある盤は「桂」でできたものだと思いますが、高級だといわれているのは、「榧(かや)」でできたもの。高いものは家が買える位の値段がします。榧の碁盤は打った時の音の感触が良いんです。
白い碁石はハマグリの殻でできているんですよ。貝の殻をくりぬいてつくるんです。線が入っているので貝だと言うのが分かります。宮崎県が原産地。日向産のハマグリ碁石は、形が整っていて、線が綺麗なのでこだわると、3000万円位します。音が榧だと良いんですよ。でも、最近は大きなハマグリが取れなくなってメキシコ産が増えました。黒は那智黒という石です。
私も、この間「テレビ試作品(?)」という番組で、碁盤と碁石を作らせてもらったんですね。そこで、綺麗なのを作りたいと注文したら、値段が100万円近くなったらしくて。あっ、これ、内緒です。でも、やっぱり綺麗なのを作ろうとすると大変なんだなぁと思いました。
M:
ヒカルの碁でも「新榧」という「榧」に良く似た木で、だまして売りつけようというエピソードがありましたね。(ヒカルの碁:第103局「偽りの署名」)
Y:
ある程度のものを揃えたいという方に、私がお薦めするのは、セットで20万円位のものです。代々使える、一生物の買い物と思えば高くはないですよね。
K:
ハマグリは、どの位の大きさなのですか?
Y:
1個の貝をくりぬいて作るのですが、前に見た時は15cm位でした。一つの貝から3個位しか取れないんです。中身は食べているのでしょうかね、どうなんでしょう?
M:
碁石の他の材質はあるんですか?
Y:
あります。例えば、ガラスでできたもの。でも、すぐ割れちゃうんですね。だから、なんともいえない感触があるハマグリ碁石が一番。あの「コーン」という気持ちの良い響きがいいんですよ。
M:
碁の道具って、値段のつけかたが楽器に似ていますね。碁盤を作る名人っているんですか?
Y:
線をつけるのも日本刀でやるらしいです。足も独特の形をしています。怖い話なのですが、裏に穴が空いているのは、首をはねられた人の首を置く場所だと聞いたことがあります。
M:
将棋盤にもありますね。
Y:
碁盤は厚いのが良いです。使っていて、傷がついても表面を削れば長く使えます。
K:
盤には決まりがありますよね。
Y:
19路盤が正式なものです。21路盤というものを打ったことがあるのですが、2路広くなるだけで、すごく分からなくなります。
M:
それは考えるスペースが増えるので、バリエーションが増えるということですか?
Y:
感覚がもう全然違うんです。碁では「一路の違いは、良い手とへぼ」と言われる位違うものなので、盤が大きくなればなるほど大変です。昔は大きかった時代も小さかった時代もありました。
M:
将棋と囲碁ってどんな違いがありますか?
Y:
将棋は王様を取るという明確な目的があるのですが、囲碁は陣地を取るというすごく漠然とした目的なんです。囲碁は「調和のゲーム」といわれるのですが、盤上中を自分の陣地にしようすると絶対負けるんです。ある部分を与えるから、ある分をいただきますという発想が必要なんです。
K:
将棋と碁の競技人口はどんな風に違うの?
Y:
底辺は将棋の方が広いのですが、夢中になっている人は囲碁が多いです。あと囲碁はお金をかけてまでも、強くなろうとする人が多いです。レッスンの依頼は囲碁の方がはるかに多くて単価も高いらしいです。
M:
碁会所はよくありますが、将棋を打つところはあまり無いですよね。大阪の通天閣の賭け将棋位ですか。
Y:
碁会所は駅の周りに必ず一箇所位あると思います。
K:
賭け事もしてるんですか?
Y:
賭け碁はめったにないです。新宿に一軒だけあるらしいですが。
M:
上達のコツは?
Y:
はじめたばかりの時は、とにかく打つことです。そしてたくさん失敗することです。できれば2秒でいいからシミュレーションして、3手まで読んでみてください。
M:
何局も打ったり、棋譜をみたり?
Y:
そうですね。私も、棋譜や詰め碁という本を見て勉強します。読み筋を養うんです。これ、必ず上達につながります。詰め碁の問題って、時代が変わっても変わるものではないんですよね。問題のなかには、中国や江戸時代に作られたものもあります。
K:
棋譜ってなんですか?
Y:
対局を再現したもの。その対局で、石を並べていった順番を一番、二番、三番と紙に記したものなんです。勉強するには、強い人の棋譜を使います。棋譜を見れば、どんなに昔の碁でも再現することができます。昔の強い人が打っていた碁を感じることができるんですよ。楽譜みたいですね。一度見た武田信玄の碁は力強かったです。
K:
力の強い碁ってどんな碁ですか?
Y:
囲碁は陣地を囲いあうゲームなんです。だから、石がぶつかり合う部分で戦いが生じる。そこで攻めとっていく碁を力が強いと表現します。戦好きの碁って言う感じでしょうか。
M:
棋譜はどうして順番どおりに並べられるんですか?
Y:
一手打つことに、次の手をいろいろシミュレーションしていて、形でイメージしているから覚えられるんだと思います。やっていくうちに皆さんも絶対覚えられるようになります。これは時間の問題です。
Y:
頭は使いますが、考えすぎないことです。多少いい加減であるほうが最初は強くなります。何十年やっていても、どんなに考えても答えが出ない局面っていっぱいあるんですね。答えをだそうとすると精神がもたないと思うんです。特に初心者の場合は、やってみないと分からないことがすごく多いので、あたって砕けて欲しいんです。砕けると悔しいと思うので、次は変えてみようと思う。そういう工夫の積み重ねで強くなるので、最初から100%を目指そうとすると前に進めません。さきほど音楽の話が出ましたが、音楽が好きな人は強くなりやすいです。感覚でできるんですね。逆に理詰めで考える方は最初のうち上達が難しいです。今日始めてやられる方も、一日でルールを100%覚えることはないと思います。やっていくうちに、ちょっとづつ掴んでこれるものなので。最初のうちは、いい加減さが大事です。
K:
コンピューターでやった人はいないのですか?
Y:
コンピューターの囲碁ソフトはとっても弱いです。人間のほうがはるかに強いです。
K:
IBMはチェスで勝ちましたが。
Y:
囲碁はまだ全然です。はじめられたばかりの皆さんがゲームソフトでやるのは十分ですが、ある程度の力がある方には、まだまだです。その点では囲碁には夢があると思います。計算し尽くせないものがあると思います。
K:
テレビで武宮九段が、囲碁は目的がはっきりしないゲームだと言っていたんですよ。だからコンピューターは強くなれないと。
K:
勝利の方程式みたいなものは無いんですか?
Y:
あったら知りたいんですけどね(笑)。計算した人はいますが、とんでも無い数になったらしいですよ。
M:
囲碁を長い付き合いにするためには?
Y:
一番いいのはライバルをみつけることです。ちょうど同じくらいの仲間がいると楽しいし悔しいんですよ。良くおじいちゃんで碁敵に勝ちたいとかいいますよね。
K:
一日の中でいつ打つといいんですか?
Y:
働いている方なら、仕事の合間とかいいですね。囲碁は右脳を使うと言われているので、左脳を使う仕事の合間に楽しむとバランスがとれて、すっきりするらしいんです。
M:
痴呆も防げます?
Y:
金子満男先生という浜松医療センターのお医者さんが、『囲碁はボケ防止の妙手』という本を出されているんですよ。昔囲碁を打たれていた方はちょっとボケ初めても治ることが多いそうです。
M:
忘れ物が少なくなるとか?
Y:
私は忘れっぽいのであまり参考にならないです。
M:
ビルゲイツも囲碁をやっているって本当ですか?
Y:
ビルゲイツは囲碁大好きらしいですよ。アマチュア4〜5段の腕前だと聞いたことがあります。
M:
アメリカではインターネットで碁を打つんですよね。昔聞いた話で「郵便碁」というのがあって、一手づつ郵便で送るのですが、一年くらいかかるらしいです。
Y:
おじいちゃん達には楽しいんでしょうね。うちの母も囲碁を楽しんでいます。
M:
囲碁界は閉塞感ってあるんですか?
Y:
そんなことないですよ。皆いい人ですし。でも、狭いので、外からは入りにくそうに見えるかもしれません。
M:
敷居が高いと感じるのはなんでかな?
Y:
強くないと悪いというイメージが数年前までありました。碁会所でも初心者は受け入れないところがあるんです。これは、プロや強いアマが反省すべきこと。今は、少しずつ変わってきています。日本では老人のゲームなんですが、外国では碁は頭をつかうから若いうちしかできないといっています。
M:
韓国は若い人が強いんですよね。
Y:
そうですね。
Y:
6歳のときに、父親から突然、碁盤と碁石をプレゼントされて始めたんです。
M:
お父さんはなぜ囲碁を?
Y:
父も全然囲碁ができなかったんですよ(笑)。だから一緒にやろうって。最初はルールブックを見ながら始めました。でも、なんでだったんでしょうね、本当に。その頃はプロの世界があることも知らなかったんですから。人生分からんもんですね。
M:
囲碁の世界に進んで行ったのは何か理由が?
Y:
囲碁は勝ち負けが明確に出る。私は、負けるのがものすごく悔しかったんですよ。と同時に、父親と対等に戦えるのが新鮮でした。何をやってもお父さんに勝てるものはないのに、囲碁では互角に勝負できる。親子が同時に始めた場合、8割くらいは子供のほうが早く強くなるんですよ。私も、親に勝てるのがすごく嬉しくて魅力的でした。碁会所でおじさんに勝てることも嬉しかったですね。
M:
碁会所にはいくつくらいの時から?
Y:
7歳くらいの時からですね。行くとね、お父さんにお菓子を買ってもらえるんですよ。で、勝つと褒美がまた増える。えさにつられたのかもしれませんね。
Y:
魅力は小学生のうちから感じていました。決断したのは中学生のとき。今の師匠である加藤正夫本因坊に出会えたことがきっかけです。碁は強い人と弱い人がハンデをつければ台頭に戦えるゲーム。ハンデをつけていたとはいえ、当時名人だった師匠に勝つことができたのは、すごく嬉しかったんです。で、それが自信になり「プロになろう!」と弟子入りしました。
M:
人生の進路を決めてしまうには、えらい早いと思いますが?
Y:
そうですね。でも、去年は11歳でプロになった子がいました。
M:
子供から始めないとプロになるのが難しいと聞いたことがあるのですが?
Y:
プロになりたかったら一桁の年齢のうちに始めた方がいいですね。頭が柔軟なので。囲碁は理論的に考えているように思われることが多いのですが、実は感性でとらえているところが多いんです。だから、小さいうちに始めた方が身につきやすいと言われています。最近は棋院にも、たくさん子供がいます。みんないきいきとした顔をしているので、皆さん結構びっくりすると思いますよ。
M:
碁を勉強したのは碁会所で?
Y:
中学二年生からは師匠に弟子入りし、月火金と師匠の家に通っていました。水木は棋院でプロ棋士の対局の見学。土日はプロになるための研修。毎日、囲碁漬けでした。
Y:
挫折をくりかえすうちに自分はプロになりたいのか自問自答しはじめました。
M:
勝てなくなったり、壁ができたりしたんですか?
Y:
プロ試験は通常年1回。でも女性の場合、年に2回チャンスがあるんです。ちょっと有利なんですね。それなのに、本番になると勝てないんですよ、これが。私って、すごい小心者で、本番前になるとお腹がいたくなる。電車に乗っていてたどり着けないくらい。。。たどり着いても力が発揮できなくて。。。その頃は悩みました。どんなに下馬評が良くても、いつも次点だったんです。
M:
何歳くらいからプロ試験を受けたんですか?
Y:
最初受けたのは15歳でした。その頃は、「もしかして、私って、すごいエリート?天才?このまま囲碁会を制覇するんじゃないの?」と思ったぐらい。でも、そんなに世の中、甘くは無い。単に、勢いだけだったんですね。碁に厚みが無かった。
それで、結局合格したのは大学4年生の12月。22歳の時でした。その時は、こんなに嬉しいことが人生にあるのかと思いました。今考えると、それまでは自分が自分を認められるだけの努力をしたことがなかったんですね。大学3年の時に人生を悩んで、初めて自分の心と対話をしたんです。
苦しかったのも囲碁だけど、一番楽しかったのも囲碁。すべての出会いは、囲碁のおかげ。もしこれを乗り越えられたら、きっとすごく楽しいことがあるに違いない。だから、自分で自分を認められるだけの努力をしようと、自分に掛けてみたんです。結果ももちろん欲しかったけど、一生懸命努力できれば、やった自分を認めてあげられる。そう思ったんです。結局、それが結果につながった。たぶん、それまでがあまりにも怠け者だったんですね。だから、対局していても、この人が自分より努力しているかもしれないと思うと、引け目感じてたんですよ。
M: